Shingaku Express / 誉田進学塾だより 巻頭言より
(2021年07月号)
「もう一度生まれかわったら、また...」
(この稿の締切の)今朝のニュースでアメリカのパデュー大学元教授根岸英一博士の訃報が流れた。ご承知の通り、2010年ノーベル化学賞受賞者である。予定していた原稿テーマを変更し、追悼の意を込め、その根岸先生の話を書いておきたい。
古いブログを探しだしたのだが、2010/11/29に東大安田講堂で記念講演が開催された。記憶が確かなら受賞決定から授賞式までの間に一旦帰国された中で、最初の、たった一度の開催だったはずだ。その貴重な機会に、たまたま東大工学部大学院教授の高校同級生からの紹介で、その場に参加することができた。
ご講演は、ノーベル賞の受賞確率の話から始まり、研究内容と、それに対してどう考えて成果を上げたのかという少し専門的な話。理系出身のためそれだけでも十分興味深かったが、一番強烈に記憶に残ったのが最後の質問へのご回答だった。
「せっかくだからこれからを目指す若い人から」と参加していた学部生・院生からお受けになり、「もしもう一度人生をやり直せるとしたら」という問いに対して、「やっていくうちにうまくいく、こんな楽しいことはない、また発見で身体が震える体験をする若い研究者もたくさん見た。そういうことをやりながらお金を貰える仕事は余りない。もっと高額なスポーツ選手などもいるが、私はこの程度で十分。好きな化学をもう一度やる」とお答えになられた。続けて「有機化学はエネルギー、環境、食料問題解決に可能性がまだまだある。自分の年齢ではもうあまりできないかもしれない。だから、もう一度生まれ変わったら化学をやる」と締めくくられた。
このときの感動を今朝の悲しいニュースで思い出した。そういう使命感を持って各分野で将来活躍するように子供たちを導きたい。根岸博士の生まれかわりのような研究者・リーダーが輩出する「場」に少しでもなれるように、頑張ります。
(この時のブログ記事をWebSiteの公式blogに再掲載します。また、このご講演は現在東大から公開されているようで、そのリンクも紹介しておきますので、ぜひご覧ください。)
※この内容は2021/07塾だよりに掲載したものです。
訃報の日に書いた記事。
文末にある通り、もう少し詳しいエピソードは、このブログにすでに紹介した。
(このリンクの中に5回に分けて書いています。ご参照ください)
http://www.jasmec.co.jp/cgi-bin/diarykan/diary.cgi?date=202106
もし、もう一度生まれ変わったら...
また同じ道に進みたい、と言い切れるように頑張ります。
いや、生まれ変わらなくても、今世で十分やり切りましたと言えるように、頑張ろう。