Shingaku Express / 誉田進学塾だより 巻頭言より
(2024年2月号)
受験は団体戦
自分の行動と心理を俯瞰して省みることで、メタ認知力を高めることができる。将棋や囲碁の感想戦がその例だろう。極限状態での瞬間的な判断を正しく行うためには、あえて過酷な条件下での思考力と判断力を鍛える訓練が必要だ。
年明け早々の、JALの事故からの奇跡の脱出には感嘆した。実は7年ほど前、報道で盛んに取り上げられた、あのCAの皆さんたちの避難訓練を見学したことがある。非常シューターで滑り降りる訓練も目の前で見た。訓練は羽田の教育センターの中にある機体モックアップで行われていたが、訓練ごとに特定の条件を指定されて、照明を消したり煙を充満させたりして実施する。マニュアル通りの型に当てはめた行動だけでは対処できず、判断を強制するようにあえて状況を変えていた。そして最後に、指導教官からではなく乗客役のCAたちから振り返りの指摘を受ける仕組みだった。知識と技量だけでなく、その上の感知力、そしてそれを支える心の教育を重視しているとのことだった。確かに、幸運だった部分も少なくないが、危機に備えていた準備があったからこそ、幸運を奇跡にすることができたのだろう。
受験も危機管理能力が問われている。単なる問題の解法を型として習得するだけでは通用しない。厳しい状況を模しての準備としての訓練が重要だ。もちろんどんな訓練も本番には敵わない。入試中こそ能力が大きく伸びる可能性を秘めている。
同時に、省みる機会を一番与えるのは仲間たちからのフィードバックだ。ともに切磋琢磨してきた仲間たちと、本番の入試を通して自分の力を発揮する経験値を上げてほしい。受験は、単なる結果ではなく、どんな成長をしたかが、本当の価値であるはずだ。たとえ苦しい瞬間があっても、未来の自分のための経験と考え、最後まで乗り越えてほしいと願う。その力を与えてくれるのも仲間たち。そして、もらった以上に誰かに勇気を与えたいと強く誓って頑張ろう。受験は団体戦だ。
※この内容は2024/2塾だよりに掲載したものです。
今年元日の羽田空港、能登地震救援の海保機と着陸中のJAL機が滑走路上で衝突した事故での、JALの乗客と乗員の緊急脱出劇は、多くの報道で、まだ皆様の記憶に新しいだろう。
パニックになることを制し、的確に誘導した客室乗務員の皆さまの活躍は、偶然の結果ではない。まさに緊急時対応の訓練の成果であろう。
訓練は、年に1回、全員が実施するという。緊急時訓練というと、直接的な技能的な部分、手順確認などの技術面、あるいは座学と試験による知識面のイメージが強いと考えがちだ。しかし、この見学で説明を聞いたときの記憶では、上記のような感知力、その場での判断力といった、マニュアル化しにくい暗黙知の差の部分を、どうやって、単なる経験によってだけではなく、身に着けるようにするかを軸にしているように感じた。経営破綻からの再建の経験を経て、技術面に寄り過ぎていた研修を改め、最もベースとなる心の面、人間力、人間性自体をどう高めるかにいきついたと記憶している。
(ミュージアム、整備工場見学のあと、一般非公開の乗務員訓練センターで見学したのだが、モックアップ機体内や脱出スライダー、救命ボート(ラフト)などの写真は、公開禁止とされたのでお見せできないのが残念。客室乗務員の方たちが滑り降りるところも見学したのですが…)
(公開されている取材映像があったのでリンク)
https://www.youtube.com/watch?v=XWQ2FZpuXbY