Shingaku Express / 誉田進学塾だより 巻頭言より
(2025年1月号)
ピークを超えるために
経済協力開発機構(OECD)が、国際成人力調査(PIAAC)の結果を公表した。31か国・地域から約16万人が参加した成人(16~65歳)が持っている「成人力」についての調査で、2011年に続いて2022年度実施の第2回。日本は読解力、数的思考力で、2位(前回1位)、初調査の問題解決力で1位だったことは、報道等でご存じだろう。PISA(15歳の学習到達度調査)で常に上位を占める東アジア勢が目立たず、常連のフィンランドのみでなく北欧が高得点なのが目につく。日本が16~24歳がピークで以降年齢が上がるに連れてスコアが下降するのに対し、北欧は、16~24歳よりも、25~34歳と35~44歳のスコアが高いという違いが明らかになった。大学院進学や博士号取得、就職後のリスキリングの機会不足が指摘されている。
だが、私たち受験に関わる立場としては、本来、通過点の目標であるべき受験の合格を勉強のゴールとして目的化してしまうことによって、進学後の学習意欲を低下させてしまうことの弊害に真摯に向き合う必要があると考える。受験勉強を通して、必要な能力を磨くことは、その後の高度な能力を引き出すための手段であり、それだけが目的となり、学習が持続しないようにしてしまってはならないはずだ。
また、この調査では、日本人は、仕事に対してスキルが不足していると考える割合が29%で、OECDの平均の3倍と、非常に高いこともわかった。それは課題としての提言がされていたが、不足していると自己を厳しく評価する姿勢が、高い向上意欲を生んでいる可能性もある。PISA調査でも、同様に否定的に評価する割合が高かったが、相反して、やればできると考える人の割合が一番高いという調査結果もでていて、結局、トップクラスの好スコアであることを見逃してはいけない。
他の様々な調査では、経験だけではスキル向上にはつながらないことがわかっている。大人になっても挑戦する気持ちを持続することが鍵であることは間違いない。
※この内容は2025/1塾だよりに掲載したものです。
この調査の結果は、さまざまな示唆に富んでいる(ご興味のある方は、以下をご参照ください)。
⇒ 国立教育政策研究所の生涯学習政策研究部の国際成人力調査PIAAC
https://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/div03-shogai-piaac-pamph.html
最後に触れた通り、直接の調査結果ではないが、自己評価とスキルの関係は、さらなる検証結果がほしいところだ。
ところで、先日、TVのあるニュース情報番組で、長寿パーティーゲーム「黒ひげ危機一発」に関する実験を紹介していた(正式製品名は一発で、一髪ではないことに初めて気づいた!)。
発売50周年を迎えるにあたり、記念版製品から正式ルールを飛び出したら「負け」から、発売時の「勝ち」に「戻した」という。もともと「黒ひげ親分を救え」という設定で、飛び出したら「勝ち」だったものが、あるクイズ番組で「負け」の設定で流行ったため、その後、正式ルールも変更し、そのまま続いていたとのこと。メーカー公式発表によると「50周年を迎え、原点回帰することによって、"負け"ではなく "勝つ"という普遍的な楽しさを提案します。」ということらしい。
T V番組では、いわゆるZ世代でどう遊んでいるかを取材し「勝ち」で遊んでいたため、世代差があるかどうかを脳波を測定しての実験を試みていた。その結果、30~50代は「負け」のときが楽しく、Z世代にあたる10~20代は「勝ち」のとき楽しく感じる結果を得た。脳波のグラフから、Z世代は「ストレス」があると、楽しさを感じないままで、30代以上が、「ストレス」からも「興味」や「楽しさ」を呼び起こすのとは、大きく感じ方が異なるらしい(そのあと、その結果についてコメンテーターが、それぞれ意見を述べ合っていて、思うところはあるが、そこは略す)。
これは、日本人の大人世代が「我慢強い」方が「能力が伸びる」と考える率が高いことと相関関係があるかもしれない。教育学の「常識」とされていた「マシュマロテスト」という有名な心理学実験の結果が、近年否定されたことは以前にどこかで触れた。「我慢強い」は「成績」と相関関係はあるが、原因因子ではない。
否定ではなく肯定的な見方で「楽しく」挑戦することが出発点。その後に「向上」を目指して「負荷をかける」トレーニングを自己選択する「心」を育てられるかだろう。
楽しく学んでいきたい。