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[巻頭言2015/05より] ゾーン

Shingaku Express / 誉田進学塾だより 巻頭言より
(2015年05月号)

ゾーン

 難関中学高校受験研究会の林成之先生のご講演に、たくさんの保護者の皆様にご参加いただきありがとうございました。オリンピックチームへの脳科学に基づいた指導のお話はいかがでしたでしょうか。

 最後の、北島康介選手の「チョー気持ちいい」が、最後の10mでゾーンに入ったからだという話は、勉強で成果を上げる子供たちとよく一致する話だったのではないだろうか。最後まで頑張り成果を上げる子供たちは、勉強を目的のために我慢する苦痛と思っていない。勉強して達成することを、心地よいゾーンの中にとらえている。好きだからやり続けて、その結果、わかることやできることで、達成感を得る。達成感を得るから好きになる、というプラスのループの中で行動している。「好きこそものの上手なれ」の典型だ。

 子どもの時ほど、周りの環境が大切。その環境をリードするのは大人。よき手本となるように大人が努力を楽しむ姿を見せることが一番だ。

 以前に、子供の成績に影響する家庭の要素は何かを調査した結果があったが、親が本を読む、本が家庭にたくさんある、新聞を親が読む、ニュースを親がよく見るなどは、成績に対して密接なプラスの関係があった。逆に、週刊誌・雑誌を読む、テレビドラマやワイドショーを親が見る、は負の相関があった。

 まず親自身が知的な体験を大切にする心が重要。子どもに、あれこれ指示を口にする前に、まずは親自身が自らの学びで「チョー気持ちいい」と言おう。

 難関高校受験研究会AP、そして難関大学受験研究会受験生Programが始まります。ぜひご参加ください。

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※この内容は2015/05塾だよりに掲載したものです。

 毎年の恒例だった難関中学高校受験研究会での講演に、世界的脳外科医の林成之先生に来ていただいたときの話である。少々古い話にはなったが、水泳の北島康介選手がオリンピック2大会連続2種目金メダルを取った北京大会のときに、平井伯昌代表コーチらの要請で、勝つための脳の戦略的使い方を指導された方だ。NHKのクローズアップ現代などマスコミでも多数とりあげられたのでご記憶の方も少なくないだろう。当日の講演内容はもちろんだが、例によって、楽屋での脳科学についての談義も大変興味深かった。五輪での内容についてご興味のある方は、ご本人の著書に詳しいので、ぜひそちらをお読みいただきたい。
 さて、ゾーンの話。スポーツの世界では、フローとも呼ばれているらしいが、トップアスリートが試合の瞬間に、自分の意識と、行動している自分が離れたように感じる特別の状態を指すという。このゾーンの実体験談は、同じオリンピック北京大会100m×4リレーでトラック競技日本人男子初のメダリストとなった朝原宣治さんの講演を聴いたことがある。スタートの合図で第一走者が走り始めた瞬間、それを見ている自分と、練習の通りルーティーンで動く自分との意識が離れ、ゴールして掲示板を確認しようとしたところで元に戻ったということだった。
 意図的にゾーンに入ることは、超一流選手でも難しいと言う。朝原さんは前のアトランタ大会で一旦引退を決意した後、再挑戦へそれまでの考え方を改めて、一発勝負にピークを合わせて力を出すという考えを捨て、練習のときから常にベストの記録を維持するコンディションを続け、決勝のときも同じ状態を再現するという考え方に行きついたと話されていた。
 勉強は、瞬発力ではなく、毎日の努力の積分値だ。瞬間的に集中力を発揮するゾーンとは少し異なるものかもしれない。だが、勉強中に集中しているときは、ゾーンの状態とよく似ている。ゾーンは、修行を積んだ僧が瞑想するときの脳の状態と似ていると言われているので共通するものが少なくないのだろう。
 集中力を高める緊張状態と同時にリラックスした状態になっているのがゾーンの特徴という。勉強でも、その状態になるいくつかの方法は経験的に知っているが、再現性は高くはない。意図的に、勉強でゾーンに入る方法を究めたい。