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今が未来を創る

Shingaku Express / 誉田進学塾だより 巻頭言より
(2023年12月号)

今が未来を創る

 小学校の5,6年頃、毎週末に塾に通っていた。いわゆる中学受験のための塾で、実績があり地域(東京の西)では結構有名な塾だったらしい。住宅地域のご自宅隣接の木造平屋の大きな建物に細長い机で、ぎゅうぎゅう詰めで勉強した(テスト受験者が100を軽く超えていたのでその数で一斉だったのだろう)。一週間のテスト範囲を勉強して、4科目のテストを受ける。解説授業のあと、次回範囲の内容を習って帰るというもの。今にして思えば、当時の四谷大塚(今のYTテスト)や、今はない日進という中学受験有名塾と同じやり方だったのだろう。親の命のまま何も知らずに、低学年の頃の同級生で隣クラスの優秀な友人と通っていた。6年の終わり近くの冬のある日、友人が休みで一人で塾に行くと、ほとんどが欠席だったことから、初めて周りは受験のために通っていたことを知る(親は知っていたが)。その日が受験当日だったと記憶しているが、もしかすると直前日だったのかもしれない。

 一番の思い出は友人とバスを乗り継いで通っていた記憶。帰りにたまに、乗り継ぎのバスに乗らず、浮かしたバス代で買った肉屋のコロッケを食べながら歩いた。そして、バスの往き帰りに、友人が出す算数の難問をパズルのように考えることが、強烈に楽しかった。友人は受験の勉強をしていたはずなので、過去問などから、悩んで喜びそうな問題を狙って探して、ノートに書いてきて出題していたのだろう。

 授業内容や先生の記憶は、もはやほとんどない。それでも微かな記憶で、算数で図を描くとスパッと解ける感動は残っている。社会や理科のテキストを読んで、新しい知識に触れるのが楽しかった。毎週テスト順位も出たが、それに向けて暗記したことは全くなく、知的刺激だけで憶え、今もその大半が残っている(はずだ)。

 数十年後、塾のあった辺りの住宅地を歩いてみたことがある。楽しかった過去の名残りは全くなかった。ただ表札にあった先生の苗字は憶えていた。

※この内容は2023/12塾だよりに掲載したものです。

 日頃、ほとんど過去を振り返らない(日々の反省はしていますが…)ので、思い出すこともないが、もはや思い出そうとしても断片的な瞬間シーンしかでてこない。子供の頃の嫌だった記憶も風化してしまい、嫌と感じた感情自体は消えて、思い出せるのは嫌だったなと記憶だけにすぎない。長い時間の経過によって、今に対する評価が、過去の評価も変化させてしまったのかもしれない。
 だが、楽しかった記憶は、今も楽しいと感じることができる。当時とは異なる楽しいなのかもしれないが、ずっと残る。
 いいこと、悪いこと、今のすべてが未来を創る。若き日の勉学や受験が、耐えるだけの嫌なものとしてではなく、楽しさを伴う知的な刺激と興奮として残るように、塾・予備校として私たちは大切にしなければならない。
 楽しい記憶は、長く強く残るはずだ。

p.s.
 今、ストリートビューで見たら、住宅地に入る裏道にあった、コロッケを買った肉屋は、数年前まであったらしい。