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[巻頭言2015/04より] 誉め方

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Shingaku Express / 誉田進学塾だより 巻頭言より
(2015年04月号)

誉め方

 知己の脳科学者岩崎イチローさんによると、「誉め方」が影響を与えるという、ニューヨークでの実験結果があるそうだ。

 小学生に誰でも簡単に解くことができるパズルをさせて、誉める実験をする。そのとき、2つのグループに分けて、それぞれで誉め方を変える。片方のグループの子供たちは「頭がいいんだね」と誉める。もう1つのグループの子供たちは「よく努力したね」と誉める。そのあと、難しいテストと簡単なテストを生徒たちに選ばせたところ、「頭がいい」と誉めた子供の9割は簡単なテストを選び、「努力」を誉めた生徒は難しいテストを選んだそうだ。さらに続けて、もっと難しいテストを与えると、「頭がいい」と誉められたグループは、すぐにあきらめてしまい、「努力」を誉められたグループは熱心にこの難しいテストに取り組んだそうだ。

 「頭がいいんだね」誉めるのは、その子の「能力」、つまりテストや成績の「結果」を誉めていることにあたるかもしれない。「結果」を誉めると、「結果」の失敗を恐れ、リスクに挑戦することを選ばず、簡単に「結果」だけ出すことを選ぶ。そしてできないことに挑戦しなくなる。それに対して「努力」を誉めると「結果」の失敗を恐れず「努力」を選び、たとえ失敗しても自分の「努力」が足りなかったと考える。

 親は子供のために「結果」ではなく「努力」を誉めよう。

 高校受験部では、難関高校受験研究会はSpecial Programに続いて、5月上旬からAdvanced Programが始まります。脳科学に続いて、親の役割について学年別にお話します。こちらもぜひご参加ください。

※この内容は2015/04塾だよりに掲載したものです。

論文の引用の記載がない。記載だけでなく、元の記録もきちんと整理していなかったので、どの論文が根拠なのか改めて調べてみた。おそらく、出典はコロンビア大学のミューラー教授らの論文「知性をほめることは、子どものやる気や成績を損う可能性がある」(Praise for Intelligence Can Undermine Children's Motivation and Performance / Claudia M. Mueller and Carol S. Dweck Columbia University / Journal of Personality and Social Psychology 1998, Vol. 75, No. 1, 33-52) だったようだ。(この論文結果は経済学者中室牧子教授著「「学力」の経済学」の中でも紹介されている。同著は、数年前に話題となったベストセラーであるが、この「巻頭言」より少し後の発行で、そちらからの引用ではない。ご興味のある方は、同著または元論文を参照ください。)
 改めて全文を読んでみると、「カギ」となっている部分について、上記よりかなり踏み込んだ研究をしている。まず、最初に簡単なテストを実施したあとに、子供たちを、「能力」を誉める、「努力」を誉める、比較対象群の3つのグループに分け、次に敢えて挫折を感じさせるようにかなり難しいテストを実施、続いて元と同程度の簡単なテストを実施するという3段階のテストを行った。さらに様々な他の仮説を検討し計6種類の研究を実施し、子供たち本人の考え方への影響を検証している。
 その結果、驚いたことに、能力を誉めた子供たちは3回目のテスト結果が低下するという。もちろん習熟効果のため3回目はやや上昇することが期待され、比較対象群は実際上昇傾向を示す。そして努力を誉めた子供たちは、大きく上昇するという。誉め方の違いだけで、結果は有意性のある違いを示すとそうだ。
 また実証の結果では、能力を誉めると、努力を誉めた場合に比べて、この課題のゴールが、何かを学習することではなく成績であると考える割合が高くなる。さらに成績は能力で決まると考え、2回目の成績が悪かった原因は自分の能力が低いことであると考えてしまう。それに対して努力を誉められた子供たちは、成績が悪い原因は努力の不足であると考え、努力しようとするようになる。そして、そのテスト課題そのものへのやる気や楽しいと感じるも大きな影響を与える結果となったそうだ
 また、次の試験に向けて欲しい情報を選ばせると、努力を誉めた子たちは、課題を習得するのに役立つ情報を好むのにたいして、能力を誉めた子供たちは、他の(誰だか知らない)子供たちの成績を知りたがる割合が高くなる。さらに自分の成績をよく見せるような嘘をつく(評価者ではない、知らない人に)割合も高くなるそうだ。
「誉めると伸びる」は必ずしも正しいとは言えない。「誉め方」も、正しい科学的根拠とともに学ばなければ、効果がでないだけでなく、悪い影響を及ぼす可能性もある。
 親も指導者も、子供以上に学ばなければならない。