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[根岸英一博士の訃報に接し再掲載 その1]

受験勉強とは何か(その1)

ノーベル化学賞を受賞した根岸英一パデュー大学特別教授は、受賞会見の冒頭で、「私は日本の悪名高い受験地獄の支持者だ」と発言したという。高度な研究になればなるほど「基本が大事になるから」、そしてそれは日本の教育で身につけたということらしい。

たしかに日本のノーベル賞受賞者は、有力な国立大学の出身者か、そこで研究で係わった人たちが占めている。
しかし世間ではよく、受験勉強では独創性は育たないとも言われることもある。

受験勉強の本質について、考えてみよう。

まず第一の側面。学力の基礎基本とは何か。

例えば、数学の問題について考えてみよう。大学入試に出題されるような微分積分の問題を考える。図を書いてそれを数式で表し極限を考えて解こうとする。その際に文字式や方程式の計算力は欠かせない。そしてもっと原始的な計算力、掛け算の九九などは無意識で、つまり潜在意識が処理することになる。

このように、思考するときの意識は何段階もの階層構造になっている。

同じように自転車に乗るときを思い浮かべてみよう。
自転車に乗るには、ハンドルのさばき方や、ブレーキ、ペダルをこぐ力と速さ、そして体のバランスなど、たくさんのことを同時にこなさなければならない。だが、サイクリングに出かけるときに、それを一つ一つ必死に考えているだろうか。
初めて補助輪をとって乗ったときなら「あっ、右右、ハンドルっ、ブレーキ、もっと右、バランスバランスっ」などとやっていたかもしれないが、上達するとそんなことは脳は考えていないはず。「次の角を右に曲がって、その先を左に」、道順は意識しているかもしれない。しかしサイクリングを楽しんでいるときは、それすら潜在意識でコントロールして、周りの景色や、顔に当たる風の心地よさなどに意識がいっているのではないだろうか。

原始的な思考を観察している、より上位の思考をする自分が存在する。このようなメタ構造で脳が働いている。脳科学の研究によれば、ワーキングメモリという脳の使い方を鍛えることで脳の能力が増すという。
そして、独創的な閃きは、下位の階層から自由に離れることができなければ、生まれないのではないだろうか。

受験勉強は、基礎基本を潜在意識に到達させる訓練になる。初めは大変なときもあるが、練習すればより簡単に落とし込めるようにもなる。受験勉強は、その脳の基礎的なトレーニングを集中して鍛える大切なチャンスであるのだ。

そして、より高度な脳の使い方、ワーキングメモリを自由に行ったり来たりする力を磨く数少ないチャンスでもある。日常生活の中でこのような階層を複雑にコントロールする必要があることはそれほど多くない。ワーキングメモリを使う、脳トレなどのゲームも流行ったが、受験勉強ほど複雑で多様な脳の使い方を要求するものはないのではないだろうか。

第一に、受験勉強は、脳を鍛える、そして脳の使い方をマスターする素敵なチャンスなのだ。

(続く)

[2010/10/13 当ブログに掲載の記事]

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